かつて、世界で何かトラブルが起きれば「とりあえず円を買っておこう」と言われた時代がありました。しかし、今やその常識は過去のものとなり、有事の際にもドルが買われる「有事のドル買い」が鮮明になっています。
1. 転換期はいつだったのか?
「有事の円買い」という言葉が完全に色あせたのは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻が決定的なトリガーだったと考えられています。
それまでも徐々に円の地力は弱まっていましたが、この未曾有の事態において、円は買われるどころか、「エネルギー価格の高騰」と「日米金利差の拡大」を背景に歴史的な独歩安を記録しました。世界が危機に直面した際、投資家はもはや円ではなく、圧倒的な軍事力と資源を持つアメリカのドル、そして金(ゴールド)へと逃避したのです。
2. なぜ「有事の円買い」は消滅したのか?
かつて円が買われた理由は、「日本が世界最大の純対外資産保有国であり、危機時には海外から資金が還流する」という期待があったからです。しかし、現在は以下の要因がそのメカニズムを壊しています。
① 貿易赤字の定着とエネルギー依存
日本は原油や天然ガスを輸入に頼っています。有事(戦争や地政学リスク)が起きるとエネルギー価格が高騰し、日本の貿易赤字は膨らみます。
- 以前: 危機になれば円を買う。
- 現在: 危機になれば燃料代のために「円を売ってドルを払う」必要が生じる。
② 「安全な逃避先」から「金利のない通貨」へ
アメリカがインフレ対策で金利を高く維持する一方で、日本は長らく超低金利を続けてきました。
有事が起きた際、投資家は「何も生まない円」よりも、「持っているだけで利息がつき、かつ軍事大国であるドルの安心感」を選びます。つまり、ドルの「利回り」と「安全保障」がセットで評価されるようになったのです。
有事が起きた際、投資家は「何も生まない円」よりも、「持っているだけで利息がつき、かつ軍事大国であるドルの安心感」を選びます。つまり、ドルの「利回り」と「安全保障」がセットで評価されるようになったのです。
③ デジタル赤字と構造的な円弱化
GAFAに代表されるITサービスへの支払いや、新NISAを通じた海外投資など、日本から外へ出ていくお金が構造的に定着しました。これにより、多少のリスクオフ(危機回避)程度では、この巨大な「円売り」の流れを止められなくなっています。
円は「普通の通貨」になった
「有事の円買い」の消滅は、日本経済が「強い製造業と貿易黒字」で支えられた時代から、「輸入コストと金利差」に翻弄される時代へと変わったことを象徴しています。
今や円は「聖域」ではなく、経済実態を正直に反映する「普通の通貨」になったと言える。
日本人としては残念な話です。